宮大工の話③

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「ええ、間違いないと思います。それにしても、あなたは余程オオカミ様に気に入られたようですね。もしかすると、イザナギの尊の生まれ変わりじゃないんですか?」 「そんなバカな。もしそうならオオカミ様も気を使う必要は無いでしょう。」 「そりゃそうですね。」 「なんにしろ、度胸一発、年明けから工事を始めて見ますよ。」 「お気をつけて」 そして俺は道具を片付け、オオカミ様のお宮を後にした。 鳥居を潜り、ふと振り向くと白いオオカミがお堂の前に座っている。 その両耳に勾玉の鈍い光を見つけ、俺はふ、と笑うと小さく「ナミさま、ありがとう。あと、工事の安全よろしく!」と呟いた。 俺のちょっと前を歩く神主さんが「なにか仰いましたか?」と聞いてくると同時に「わおおおおおーーーーーーん!」と澄んだ遠吠えが聞こえ、驚いた神主さんは階段を踏み外し数段落っこちてしまった。 翌年明けから。 犬神様の神主さん、Jの実家の親父さん、例の稲荷神社の神主さんという異例の三社合同によりZ神社の修繕工事着工祈祷が行なわれ、ウチの職人総出で道具と材料を奥宮へと運び込み、工事が開始された。親方と俺とJはレギュラーで仕事をし、何人かの弟子が入れ代わりでやってくるのだが、その内S村の地元職人さんが無償で手伝いに来るようになった。 また、近所の住人も差し入れを持ってきてくれたり、荷運びを手伝ってくれたりした。 「俺たちの村のお社を直すのを、アンタたちだけに苦労させるわけにはいかねえ」 「昔の償いはしなきゃなぁ」 等と言う職人さん達にJが「今更何言ってんだか...」といやみを言いかけた所で親方に数メートルぶっ飛ばされるなどハプニングも有ったが、結局怪我人は親方にぶっ飛ばされたJだけという状況で工事は無事終了。 奉納と慰霊の儀も無事に終わり、打ち上げを迎えた。 S村の村長の計らいで、関係者が皆近所の温泉宿に招待され、大宴会となった。 その席で、何人もの職人さんや近所の人がが「でっけえ白犬を何度も見掛けた。」 「おお、耳飾なんぞした洒落た犬だったな」 「大きな尻尾の狐もいたよな。」 「子犬が二匹、コロコロウロウロしてて可愛かったなあ」等と盛り上がっているのを聞きつつ、俺と親方と犬神様の神主さんは酒を酌み交わしていた。 ふと見ると、末席にしょぼんと座っているJがいる。
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