宮大工の話④

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ただ、その浅間神社というのが実はちょっと性質の悪い神様で、普段は良いのだがちょっとした不手際等があると一族や村に不幸を起こす事が有るという。 そして、どうも最近不手際があったらしく、そうとう怒っている様なのだと。 その怒りを鎮めるには社の修繕をして鎮蔡を行うしかないと。 しかしその修繕作業の最中に、必ず職人が一人連れて行かれてしまうらしい。 「ここ何十年も不手際はなく、氏神様も静かだったんだけどねぇ...。」 「それで、親方はどうする積りなんです?」 「一人で修繕をするって言ってんだよ。そうすりゃ、連れてかれるとしても俺だけで済むじゃねえかって...」 「親方...」俺は胸が熱くなった。 そう言うことか。 それなら、親方だけにやらせはしない。 「おかみさん、この件、俺に任せてくれませんか?」 「お前さんにしか頼めないんだよ、こんな事...」 俺は一晩案を練り、おかみさんにいくつかお願いをし、準備に取り掛かった。 三日後、親方は一人でトラックに乗り、「しばらく帰らねぇ。留守中は○○に全て任せる。」 とだけ言い残し、A村へ向かって出発した。 その後、俺は直ぐに弟弟子のX(お稲荷様に取り憑かれた男)に「それじゃあ、各現場は打ち合わせた通りにな。 なんか有ったら、おかみさんに本家に俺宛で電話してくれるようお願いしろ」と指示し、オオカミ様の社を管理している神社へと向かった。 そして神主さんに事情を話し、以前頂いたお守りをもう一度祈祷して頂き、 魂を込めて貰う為にオオカミ様のお社を目指した。 数ヶ月ぶりに訪れるお社。 ここに来ると本当に落ち着く。 長い階段を上り、オオカミ様の灯篭に挨拶し、落葉の絨毯で紅く染まった地面を踏みしめながらお堂の前まで行く。 どこからか微かに良い香りが漂ってきた。 そして、俺はお堂の前に守り札と酒と、新しい髪飾りを納め、祈祷を済ませた。 髪飾りは、以前奈良に出張した時に発注しておいた、とある女職人さんの手作業で創って貰った蓮の花をデザインした純銀の髪飾りだ。 何時も髪飾りばかりで能が無いとは自分でも思うが、俺にとっての彼女のイメージは美しく長い黒髪である。 何処に出掛けても彼女に似合う髪飾りを何時も探していて、結局一流の職人さんに手創りしてもらったものを手に入れたのだ。 守り札を持ち、帰ろうとするとさあっと一陣の風が吹いた。
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