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宮大工の話④
とある秋の話。
俺の住む街から数十キロ離れた山奥に有るA村の村長さんが仕事場を訪れた。
A村の氏神である浅間神社の修繕を頼みたいという。
A村は親方の本家が有る村であり、親方は直ぐにその仕事を引き受けるかと思いきや、なにやら難しい顔をしている。
村長さんが必死で頼み込んでいるのを横目にしながら、俺は欄間の仕上げをしていた。
村長さんが帰った後、俺は親方に呼ばれた。
ちょうど担当の現場を終えた所で手が空いていたので、きっとA村の仕事を指示されるんだなと思いつつ親方の前に座った。
「○○、頼みてぇ事が有る」
「はい、A村の浅間神社の修繕ですね。」
「バッケやろう!先走るんじゃねぇよ。・・・済まねぇが、俺が今やってる現場を引き継いでくれ。」
「えっ!」俺は愕然とした。
親方が、自身の手がけている現場を途中で止めるなんて有り得ない。
数年前、交通事故で大怪我し、入院した時でさえ車椅子に乗って現場に来て、
終いには這うようにして仕事して医者を呆れさせた御仁である。
「引き受けたからにゃあ、死んでも半端な事は出来ねぇ。それが男ってもんじゃねえか」
親方の口癖だ。
俺はそんな親方に惚れ込み、弟子入りしたのだ。
「親方、どうしたってんです?親方らしくないじゃ有りませんか。」
「うるせぇ!んなこたぁ俺が一番解ってる!おめぇは黙って従ってりゃいいんだ!」
・・・もうこうなったら親方は梃子でも動かない。
「・・・解りました。じゃあ現場の状況を教えてください。」
「おう、今は柱を仕上げた所までだ。床張りは...」
A村は人口数百人の過疎村で、住人は老人が多く周辺を山に囲まれた小盆地で、どこから行くにも一つ二つ山を超えねばならないので、普段は村外の人間はあまり出入りしない。
また、それだけに排他的な村でもあり、仕事でも無ければ足を踏み入れる事は無い場所だ。
A村の氏神である浅間神社は本当に村の山裾どん詰まりに有り、裏手は鬱蒼とした深い森である。
その夜、帰ろうとした俺はおかみさんに呼び止められた。
「○○、ちょっといいかい?」
「あ、おかみさん。なんでしょう?」
「実は、ウチの人の事なんだけど...」
おかみさんの話を聞いた俺は驚いた。
親方の本家はA村で一番の旧家で、現村長さんは親方の実の長兄だという。
また、次兄は浅間神社の神主だとの事。
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