宮大工の話⑤

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宮大工の話⑤

年号が変わる前年の晩秋。 とある街中の神社の立替の仕事が入った。 そこは、幼稚園を経営している神社で、立替中には園児に充分注意する必要が有る。 また、公園も併設しているので、遊びに来る子供たちやお母さんにも気を付けねばならない。 この現場は親方から全面的に任せられているので、弟子たちにしっかりと通達しておいた。 工事が始まると、やはり園児たちは物珍しさで直ぐに集まってくる。 保母さん達もてんてこ舞いで大変な事だ、と思いながらも子供好きな俺はたまに子供たちの相手をしながら仕事をしていた。 仕事は基本的に日曜は休むが、責任者としてはそうも言ってられない。 また、日曜日は自分一人で細工などをするのに都合がいいので現場に出る事も間々有る。 この日も、一人で現場に出て、更地になった社址で新しい社をイメージしながらスケッチをしていた。 冬直前の寒さに加え幼稚園も休みなので公園に来る子供たちや母親もまばらで静かな時が流れている。 有る程度のイメージスケッチが出来てきて、缶コーヒーでも買いに行こうかと顔を上げるとちょっと離れたベンチに可愛らしい少女が座ってこちらを見ているのに気付いた。 俺と目が合ったらはっと驚いて顔を逸らしたが、チラチラとこちらを伺っている。 俺は立ち上がると、少女に近付きながら声を掛けた。 「こんにちは、今日は寒いね。」 「こ、こんにちは。そうですね...」 頬をピンク色に染めてもじもじするのが可愛らしい。 「この辺に住んでるのかな?」 「はい。近くです...」 「良ければ、暖かいものでも一緒に飲まないかい?」 少女にミルクセーキ、俺はダイドーブレンドを買いベンチに座る。 少女は直ぐに打ち解けて、色々と話してくれた。 小学校五年生である事、昔この神社の幼稚園に通っていた事、絵を描くことが好きな事、お父さんは海外に赴任してる事、ウサギを二羽飼っている事、そして、最近ちょっと病気がちである事。 少女は俺がスケッチをしていたので興味を持ったらしい。 イメージスケッチを見せてあげると、「今は建物が無いのに、まるで建物が有るみたいな絵だね!」と目を輝かせた。 「うん、この絵をイメージしながら社を建てていくんだよ」 「これからも見に来て良い?」 「ああ、もちろん。いつでもおいで。」それ以来、少女は毎日のように遊びに来るようになった。
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