小話

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(ダテサナ) あぁ、無情 報われないとはこのことか 「んー、美味いで御座る!!!」  幸せそうに団子を頬張る奴が席に座って笑っている。  そしてその隣で同性であるはずのソイツの、そんな行動が可愛いと思ってしまう、可哀想な俺がいた。  なんの因果か、たまたま出掛けた先で、好敵手であるはずの男に出会ってしまった。  しかも、偶然立ち寄った茶店でだ。  気付いたアイツは愉しげに笑いながらわざわざ大きな声で俺の名を呼び、あまつ手まで振ってきやがった。  そうなったら俺はもう逃げることも出来ず、ソイツの隣に呼ばれるままに腰を下ろすしかなかった。 「政宗殿?食べられなうので…?」 「あー…、いや、今は腹減ってねぇし、やるよ」 「ま、誠に御座いますか!?」  皿を差し出した瞬間、奴の目が煌めいた。  その姿に胸が撥ね、異様な動悸がしてしまうも、なんとか皿だけを奴の方に押し出した。 「忝ない!!!」  嬉しそうに団子を頬張る姿にまたも見とれてしまった。  俺は今になって、不意にコイツに惚れてしまったことに気が付いた。  この胸の動悸に理由を付けるならそれくらいしか思いつかない。  というより、それが一番しっくりくるのだ。  出た答えは自らの胸にストンと落ちてきたのだ。  あっさりとした答えに俺はただ溜め息ひとつで済ませた。  そんな俺に奴も気付いたらしい。  目を瞬かせながら首を傾げて此方を見てくる。  その頬についた食べかすが付いていて、思わず笑ってしまう。 「バカ、付いてるぜ…?」  そっと手を伸ばしその頬についた食べかすを拭い、それを口に運んだ。 「なっ、なっ、何を…!?」 「餓鬼じゃねぇんだから、落ち着いて食えよ」  クスリと笑えば、ソイツは顔を着ている着物と同じ色に、真っ赤に染め上げた。  そんな様子が可笑しくて自然と笑みが溢れた。  ちょっとは意識しやがれ。俺だけがお前を好きだなんて不公平だろ? 「あ、そろそろ帰らねぇと小十郎待たせてるからな…。またな?真田幸村」  わざと此処で今日は引き下がる。  次に会うまでに少しは俺を意識すれば良い。  そう思って席を立ち、奴の分まで勘定を済ませ俺は店を出た。 「破廉恥で御座るー!!!」  遠くから聞こえた声にまた笑みが浮かぶ。  次会う日が楽しみだ。 真っ赤になって逃げられるまで 後少し時間が空いた あとがき  甘いのが書きたかったのに…。
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