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(ダテサナ)
特に意味があったわけではない。
ただすることもなくて、珍しく時間を持て余したから、良く晴れた空を呆然と見つめていた。
「政宗殿!!!」
不意に、後ろから切羽詰まった、聞きなれた声が己を呼ぶ。
振り返った先に居るであろう、愛しい相手の顔を思い浮かべると、自然と笑みが溢れた。
「政宗殿、政宗殿…」
何かあったのだろうか。
振り返ると焦った様子で、今にも泣きそうな顔に出会ってしまった。
何も言わずにいると、何度も己の名を呼んで、傍まで歩み寄ると己の着物の裾をきつく握りしめた。
「幸村?」
わけも分からず名を呼ぶが、俯いてしまっているせいで表情が見えない。
ただ服を握る手に、まるで離すまいとするかのような力強さを感じ、また更に分からなくなった。
「政宗殿が…」
「うん?」
此方の感情が伝わったのかは分からないが、ふとソイツは口を開いた。
先を促すように、それでも無理はさせまいと優しく頭を撫でる。
さらさらとした髪の感触が指に触れて心地好かった。
「政宗殿が、何処か遠くへ飛んで行かれるような気がして…」
言われた言葉に思わず目を見開く。
漸く上げられた顔には、やはり今にも泣きそうな表情が浮かんでおり、手からは小さな震えを感じた。
「行かないでくだされ…。某を置いて、行かないで…」
悲痛な言葉に何を言っているのか、始め理解出来なかった。
己はただ空を眺めていただけで、何処かへ行こうだなんて考えてもいなかった。
それを勘違いしたらしい。
だが、己が居なくなることに怯え、泣きそうになるコイツに愛しさと、謂われもない征服感を覚えた。
あぁ…、コイツは俺に溺れているのか。
「安心しな」
優しく頬に手を添え、ゆっくりと撫でる。
「行くときは、幸村も一緒だ」
囁くように呟けば、今にも泣きそうな顔が一瞬で輝くような笑顔に戻った。
「はい!!」
あぁ…、もう手放せない。
そう思いながら、蒼い蒼い空の下、己の腕はソイツの背中に回り、そっとその身を抱き締めていた。
あとがき
かなり突発。
鳥になりたいって言ってたから、きっと何処かへ行ってしまいそうだと。
置いて行かれることに何より恐怖する少し筆頭依存気味幸でした(笑)
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