第壱章 日常

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星東学園中等部三年の教室。 そこには一人の少年が、窓際の一番後ろの目立たない席に座っていた。 机に片肘をついて、窓の外をじっと見ている。 「……」 窓の隙間から吹き入る風が、少年の前髪を揺らす。 それにつられたように、少年は目を眇めた。 少年の名を、桜井翔太と言う。 窓の外では、風に合わせて桜の花弁が舞い、春の香りを漂わせている。 ふと、翔太は桜の中に人影を見た 「……?」 翔太より、少々小柄だろうか。 薄茶の髪を遊ばせ、桜の木の傍に立っている。 今は授業中。 本来なら、そこに同い年程度の生徒がいるはずはない。 教壇を見上げ、翔太は思う。 ――誰だろう しかし窓の外に視線を戻した時、翔太の視線は桜を彷徨い、確かにそこにいたはずの人影を見つけることはなかった。
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