序章 日常(Cloudy Sense)

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 五百万もの人間を集めた街を、漆黒の世界が包んでいる。  その中のとある住宅ビルの屋上に、一人の少年が寝転がって、夜の果てを覗くかのように見つめている。  ここは、普通街と呼ばれるものとは大きく異なる点ある。  毎日時刻が午前0時になると、『空が割れる』。  実際はこの街を覆っているドーム、その二層の天井の外側を開いているのだが、全長五十kmに及ぶ建造物が開かれていく様は、内部に住む人々から見ればまさに、空が割れるという表現になるのだった。  そんな様子を、少年は大した反応もなく眺めている。  『羽』と呼ばれるそれは、丁度十五分間かけて開ききる。そこに広がるのは先ほどと同じく夜の空だ。  ただ一つ違うのは、少年の目に映る『それ』があるところだ。  彼が見ているのは、黒い空に浮かぶ青い球体。視界の相当を埋めている『それ』は、その明るさで周りに映るはずの星たちを消し去ってしまう。  したがって暗闇に『それ』一つがぽっかりと浮かぶ構図になっている。 「手を伸ばせば届きそうだな」  掴むような仕草をする。当然それは空を切るのだが、彼はその握り締めた手の中に、空気以外の何かを込めているようだ。 「いつか、行けるんだろうか」
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