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その問いかけに『それ』は応えることなく少年を見つめている。
目を閉じてゆっくりと呼吸する。彼の数少ない心落ち着けられる至福の一時だ。
しかし、そんな時間は無粋な乱入者によって早々に破られてしまう。
「たくみー? 拓海ぃー」
少年の名を呼ぶ声がして、間を空けずに屋上の入口の扉が開く。
「やっぱりここにいた。よく飽きないわねえ。ホントに」
やや呆れ気味に声をかけてきたのは、青いパジャマ姿の女性だ。
ショートヘアの黒髪を風になびかせて、左手には中ほどまでに短くなった煙草を持っている。
整った顔立ちに猫のように大きな目は彼女のふてぶてしさを表すかのようで、他の女性より比較的高い身長と、引き締まった女性的な体つきは、一目見ただけならモデルと思う人もいるだろう。
「いいだろ別に。俺はここからの景色が好きなんだよ」
拓海と呼ばれた少年が目を開くことなく応えると、女性はあっそう、と興味なさ気に頭を掻く。
「……別にいいけど、早く戻りなさい。私眠いから、もう戸締りするわよ」
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