海の河童と陸のドン亀

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          ・ 「どうしました水雷長殿? 交代まではまだ時間がありますが」 私と同じく、戦時の即席教育で(それでも充分な、もしくは申し分ない成績を修めた)入営し、つい一ヶ月前に着任した内務士が尋ねる。 ちなみに彼は、私より一つ歳が小さい。 「いや、さ。艦長の雑談相手や魚雷の調子ばかり見てるんじゃあ、息が詰まりかけてきたんだ。 気分転換ってわけ。」 後者は、半分は嘘である。 魚雷の整備を実際に行うのは、私の部下であり、私自身はそれを指揮・監督するだけだ。 前者は、雑談というよりも「勉強会」に近いのだが・・・今は説明するつもりはない。 もっとも、私が持ち場を離れてこんな事しているのには、別の訳がある。 私自身が、望んでしているわけではないが―。 「・・ねえ、君。 さっきから10時の方に何か浮かんでいるけどさ、あれは何?」 世間話しでもするような調子で、私は隣に居る見張り員に話しかける。 「あ、はい!何やら黒い物体が、こちらに流れてきている様です。」 「黒い物体って何?」 「浮遊物のようです。」 ・・・駄目だ。 イロハの真ん中まで言って、最後のハを言っていない。 仕方なしに、私は年下の内務士こと、守原東矢少尉に尋ねた。 「少尉、あの浮遊物は何?」 「ハイ!浮遊物は、どうやら木材の様です。 あまり巨大でもなさそうなので、航行には支障はなさそうであります。」 「うん。少尉、君は合格だ。 そして君、見張りっていうのは何かを見つけたら、 それが何なのか、だったらどうするべきなのか、そういうのを適確に判断しなくてはならないんだ。 ただ『あれは浮遊物です』って言われても、正解な答えにはならないよ」 「も、申し訳ありません!以後、気をつけます」 彼は面食らったような顔をして応答した。 「まあ、いいよ」と言って、私はしばらく地平線の先を眺めていた。 一瞬、視線を戻すと、彼はまだ私を見ていた。 「・・何?私の顔に何か付いてる?」 「あ、いえ。         ・ ただ・・先任将校殿が美人だったものでして」  
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