割れた蛍光灯

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「な、ストップ。その手に持っているものをそっとこちらに引き渡しましょう」  それは穏やかな春の日。開け放した窓からは暖かな風が吹き込み、目を閉じれば一瞬にして眠れてしまえそうな快適さだ。  しかしだ。  いつも綺麗に整っている佐加原家のリビングにはシャープペンやらボールペンやら、どこからでてきたのか彫刻刀まで転がっている。 そうして無表情に蛍を見つめる光の手にあるものは、接着剤。 「け、ケーキは俺が悪かった! 悪かったから俺にその接着剤をぶっかけようなんて思うんじゃない! 落ち着け!」 「誰がかけるか。指くっ付けて二度と他人のケーキ食えないようにしてやるんだ」 「あ、だめ、それもっとだめ! ほらさ、指くっつけられたら代わりのケーキも買ってこれないし、な?」  必死に光を宥める蛍は、光が楽しみにしていたケーキを黙って平らげてしまった張本人だ。 いつもはケーキなどでそれほどむきにならない光だが、今日のケーキはどうしても食べたかった様子だ。  と言うのも、実は光はチーズケーキしか食べられない。ショートケーキやチョコケーキなどの甘さは苦手なのだ。 そして蛍が食べたのは、その光の大好物であるチーズケーキ。しかも姉――詩音が東京のお土産に買ってきてくれた、いつもはお目にかかれない高価なものだった。
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