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「日陰の少女1」
見渡すかぎり、本、本、本。
上を見ようが下を見ようが本がかならず目に入る。
そんな圧迫感を感じさせるこの場所は、紅魔館の地下にある大図書館。
そんな大図書館の片隅で、余計な装飾のないシンプルに作られた西洋風の机と椅子。一人の人影があった。人影は椅子に座り、本を読んでいた。
「…たまには魔法と関係ない、外の本を読むものね。」
誰に向かって話したわけではない少女の言葉。
椅子に座っていた人影は一人の少女。
少女と言っても外見から見たらで、実際は100年以上生きている魔法使い。パチュリー・ノーレッジは外の本に向かって話し掛けていた。
本のタイトルは『幻詠歌』。外の本だ。
探していた魔導書が見つからず、何となく取った本を読んでいたらかなりの時間が過ぎていた。
時計は見なくても感覚で分かる。
・・
と言っても、彼女が来たからで時計よりも正確な彼女は、時々、彼女自身が時計じゃないかと思うほど。
「…パチュリー様、紅茶はいかがですか?」
後ろから声が掛かった。知的で、その声には物腰の柔らかい優しさが含まれる。
だが、彼女はとても十代後半には見えない。
本人が言っていたのだから、間違いは無いのだろうが時々疑ってしまう。
「ええ、頂くわ。」
最小限におさえられた食器が当たる音が、後ろから聞こえ、紅茶を淹れる音も心地よく感じる。
静かな大図書館では、どんなに些細な音でも大きく感じた。ほとんどは持病の喘息で咳き込む音や、たまに来る招かれざる魔法使いの音が聞こえるのだが…。
「‥どうぞ、パチュリー様」
「ありがと。」
程よく渋みのある紅茶は美味しく、心を落ち着かせた。
心を乱した理由―――。簡単に言えば魔法使いの事を思い出したら、腹が立ったからだ。
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