ほっとみるく

優しい気まぐれ

耳鳴りのように雨が降り止まない。

本来は穏やかな日差しが降り注ぐ、３月の昼下がり。

鮮やかな色の蕾が木々を彩る中、空は灰に染まり、分厚い雲からは雨が、まるで泣き叫ぶように落ちてくる。

平日のこの時間、しかもこんなどしゃ降りの中。

人の姿はあまり見られない。

大体はまだ学校か仕事か、あるいは出掛けるのを避けているか、だろう。

そんな中に

雨に濡れる子犬がひとり。

ふらふらとした足取りは、見ていてはらはらしそうだ。

だが、そんなことは問題ではなく

何故傘もささずに、人通りのない街中を歩いているのか、とか

前を見るその生粋の黒瞳には、生気があまり見られないこととか

今にも泣き出しそうな表情と

ボサボサになって濡れそぼれた肩より少し長い赤毛とか

所々汚れた衣服とかが

濡れた子犬
否、豪雨の中関係なしに、木々が立ち並ぶ閑静な住宅街を歩く女性

彼女の心の叫びのようで。

「……っ」

下唇を噛んで、女性は立ち止まった。

雨が滴る髪のせいでその顔はあまり見えないが、女性特有の胸の丸みや、薄い桃色のワイシャツとタイトスカートと言う格好で、大体社会人であろうことが推測出来た。

息を呑み込むような動作をして、その女性はぼんやりと一点を眺めている。

その先にあるものは

喫茶店『マグカップ』の看板。