優しい気まぐれ

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何かに引き寄せられた。 「……あー、今閉店」 聞き心地のいい鈴の音と共に開いた白い扉。 全体的に白と木製で統一された小さな店内。 カウンターと、テーブル席がたったの二席。 小さい店の小さいカウンターの中にある小さい厨房には 大柄な男性が一人。 女性が店内に入るや否や、やる気の無さすぎる声で閉店を告げた。 確かに開けた扉には、『CLOSE』の看板がかかっている。 「す、すみません」 どうやら今言われて気付いたようで、女性は慌てて外へ戻ろうと踵を返す。 「はい、ストーップ」 「ひゃっ」 やはり覇気のない声音が女性に届く。 ストップと言われて止まるわけもないのだが、女性がノブを握る扉には、ナイフが突き刺さっていた。 ご丁寧な女性の反応に、男性は満足そうに笑っていた。 口元には煙草をくわえて。 「はは、いい反応。まあ座れ」 だらしなく着た白のワイシャツを右手で少し直して、男性は手招きする。 顎には少しだけ無精髭。 一応は整えている筈の黒髪はボサボサで。 女性は自身が濡れていることも忘れてぼんやりと立ったまま。 「座れって。……ナイフ、もいっこいる?」 「す、座ります……」 ナイフを左手で構える。 女性は慌ててカウンターの席に着いた。
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