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「はい、そこ座って。ワイン飲む?安物だけど」
「あ、あのさ……」
てきぱきと鍋から器にシチューをよそう手を止めて、フランシスが俺を見る。
「何?もしかしてもう飯食ってきた?」
「あ、それはまだだけど、…じゃなくて、お前、昨日のこと…」
「昨日?」
フランシスは小首を傾げ、思案顔をした。
その様子もまた、作ったような風ではない。
「あー…、だから、昨日の夜、俺いきなりキレちまって…」
「あ、そうだ」
フランシスが、俺の台詞を明るい声で遮った。
「ランチ、食ってくれた?」
…我ながら、バカみたいなポカン顔をしてしまったと思う。
「あれ?冷蔵庫に入ってなかったから持ってってくれたのかとばっかり思ってたんだけど」
フランシスが両手の指を折り曲げて四角を作る。
たぶんサンドイッチの入ったランチボックスを表しているんだろうと思い、食ったよ、と伝えた。
「そっか、それなら安心した。嫌いなもんとか入れちゃってなかった?」
「いや、大丈夫。うまかった」
口からするりと賞賛のことばが出たことに、自分でもびっくりした。
でも、フランシスが嬉しそうに笑ってどくどくとワインを注いでいたから、たまにはこんなのもいいかな、と思う。
「昨日は、ごめん」
だからなのかどうかはわからないが、謝罪のことばまでもが素直に出せてしまった。
「ごめんって、何がよ」
「さっきも言っただろ。俺、ダメなんだ、すぐカッとなっちまって…。ほんと、悪かった」
フランシスは、ああそれか、と事も無げに言うと、赤ワインをぐいてあおった。
「気になるってんなら、お詫びにアーサーの好物教えてよ」
「こう…ぶつ?」
「うん。そしたら明日はそれ作ったげる」
「………は?」
あまりにも驚いて、スプーンに乗せていたはずのニンジンが、ぼちゃんとスープの中に墜落した。
こいつ、何言ってんだ?え?好物?作る??
「それじゃ全く詫びになってねーじゃんか!」
ほんと、馬鹿なんじゃねーのかコイツ。意味がわかんねえ。
「そう?いいじゃん別に、詫びとか何とかさ」
そんなんじゃ俺の気が済まねえんだよ!そう反論しようとテーブルに手をついたところで、
「だってさ、お前の好きなもの教えて貰えたら、俺は嬉しいし。俺に利益があればそれで解決、でしょ」
屈託なく笑ってまたワインを飲み干すフランシスは、きっとこれ以上ない程のバカなのだ。
だって、それ以外考えられないからな!
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