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「今日の夕飯は久しぶりに腕をふるっちゃうから楽しみにしててね」 語尾にハートマークが付きそうなセリフに二人して素直に頷くと、麗しの大家さんは鼻歌混じりにキッチンへ向かっていった。 残された俺たちはしばらく無言で突っ立っていたが、やがてフランシスが荷物を両手に抱えて階段を上がり始めたので、焦ってその後を追う。 実のところ焦る必要などなかったのだが、何故かその背を追わなくてはいけない気になった。 「えーと、アーサー?この部屋でいいのか?」 一番奥の、日当たりだけは無駄にいい部屋。 俺は首を縦に振って「うん」と答えてから、少しガキっぽかったと後悔した。 部屋番号の横のネームプレートにはまだ俺の名前しか書かれていないが、今日か明日にはこの男の名前もこの下に加えられるのだと思うと感慨深い。 「ん、いい部屋だな」 先に中に入っていたフランシスが、そう感想を洩らす。 「だろ」 大きな窓のおかげで灯りを点さなくても明るい部屋は、決して広くはないが落ち着ける空間だった。 「さっきも言ったけど、これからよろしくな、ルームメイトさん」 夕焼け空を背にして微笑を湛えたフランシスは、悔しいくらいに壮麗だった。
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