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フランシスの歓迎会と称されたその日の夕食は、エリザベータさんの言葉通り、本当に豪勢だった。
フランシスは近所のフレンチレストランでシェフをしているらしい。
学生ばかりのこのアパートメントに何故、と思ったが、大家さんの旦那さんがフランシスのレストランでたまにピアノを弾いているそうで、彼から紹介を受けたと言っていた。
それ以前はどこに住んでいたのかと問うと一瞬フランシスの端正な顔がこわばって、おや?と思ったが、すぐに苦笑いで誤魔化されてしまったから、追求はしないでおいた。
「あ、坊ちゃんはフレンチ好き?奢ってやるから今度食べにおいでよ」
「誰が坊ちゃんだ!まぁ、フランス料理は嫌いじゃ…ない、けど」
フランシスはにこにこしながらそれは良かった、なんて言っている。
ああもう、なんか調子狂う!
皆で囲む食卓の空気はとにかく和やかで、フランシスは隣室のマシューにちょっかいを出して怯えさせたり、はたまたエリザベータさんにメイン料理のレシピを聞いたりしていた。
今日一日だけでアパートメントの住人(何人かは欠席していたが)と友好関係を結んだフランシスは、最早見事としか言いようがなかった。
食事をあらかた片付け酒が入り始めたところで、明日も早朝の講義があるからと言って抜けてきたのだが、今日のメインである筈のフランシスも抜けてきてしまって、少し困った。
「お前、なんでついて来んだよ」
「えー、だってお兄さん人見知りなんだもーん」
さっきまで初対面の相手から夜の営みの話まで聞き出そうとしてた奴はどこのどいつだ。
つーかその髭面で『だもん』とか言うな!
「明日は授業が朝一だから、お前の相手なんかせずすぐ寝るぞ俺は」
こう言えば酒の席に戻ると思ったのだが、予想に反してフランシスはニヤニヤと笑いながら俺を見ていた。
「な、何だよ」
「いや?朝が早くなかったら構ってくれるんだって思って」
「っ…!」
牽制の仕方を間違えたとしか言いようがない。
一応「お前のために使う時間なんていつだってないけどな」と言い訳をしておいたが、ハイハイ、と軽くあしらわれてしまった。全くもって忌々しい野郎だ。
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