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フランシスが、部屋の扉を開けた瞬間にヒュウ、と口笛を吹いた。 夕焼け空はすっかりと星空に変わっていたが、満月が出ているためか部屋はそんなに暗くはない。 「きっれいだなー、ここは」 フランシスがぺたりと窓に手をつけた。 ガラスに痕がつくことは何故か気にならなかった。 「あぁ。俺の大好きな、家、だからな」 このアパートメントを家、と断言した俺にフランシスは少しだけ怪訝そうな表情を見せたが、そうか、と言うと穏やかに笑ってみせた。 「よく眠れるように、ホットミルク作ってやろうか。坊ちゃんに似合いのあまーいやつ」 「甘いのなんて別に好きじゃねーよ!」 はは、と明るく笑いながらフランシスは迷いなくキッチンに立った。 ああ、こいつと話してると疲れる。 でもなんとなく、この男と過ごしてる時は自然体でいられる気がした。 本当になんとなく、だけど。 「ここの奴らは毎日あんな美味いメシ食ってんのか。羨ましい限りだな」 湯気の立つ青いマグカップを手渡され、口をつける。 ただのホットミルクなのに、何故か妙においしい。 「や、俺はほとんど毎日ご馳走になってるけど、他の奴らは大体自炊してるから特別な日だけ」 「あー、坊ちゃんはお料理できない訳ね」 「うるせえ!悪いかよ!」 悪かないけど、と呟いたフランシスは、無駄のない動作で俺の腕を掴んだ。 「え、ちょ、何」 「お前昼もちゃんと食ってる?細すぎ」 かあ、と顔に血が集まるのがわかった。 いくら食べても体の線が細いままなことは、昔からコンプレックスの一つだ。 「う、うっせぇな!お前だって大した体じゃねーじゃねえか!」 「やだなに、坊ちゃんてば見ただけで俺のスタイル見破っちゃったのぉ?ヤラシイ☆」 茶化すような言いぶりにイラついて、まだ半分以上中身の残ったマグカップを机に叩き付けたら、フランシスは少しだけ驚いた顔をしていた。 俺は、逃げるように寝室へ駆け込んだ。 ……ああ、またやっちまった。 すぐ頭に血が上ってしまうことは自覚していたし直さなくてはいけない部分だったのに。 前のルームメイトも、俺の態度が原因で去って行った。 たぶんフランシスにも、軽蔑されただろう。 「…ごめん、な…」 口から出た言葉は本心からのものだったが、それをまだリビングにいるであろうフランシスに告げることはできなかった。
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