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「おはようございます、アーサーさん」 「ハロー、菊」 アジアからの留学生である本田菊は、俺の数少な…じゃなくて、一番親しい友人だ。 ランチタイムにも関わらずおはようと挨拶するのは彼の母国の習慣らしいが、いまいち理解に苦しむ。 「おや、今日はお弁当ですか?」 「ああ、俺が作ったんじゃないけどな」 菊はそうでしょうね、と笑って、俺の向かいの席に腰を下ろす。 料理上手な菊の弁当はライスメインでヘルシーそうだが、いつも実に美味しそうだ。 「新しいルームメイトさんがいらっしゃったんですね」 妙に察しのいい友人の言葉に素直に頷くが、昨日の出来事を思い起こして、すぐに出ていくかも、と告げた。 「もう喧嘩しちまったんだ。…つーか俺が一方的に酷いこと言っただけであっちは悪くないんだけど」 「…多分、ルームメイトさんは怒ってなんてないと思いますよ」 穏やかに笑う菊に、そうかなあと返す。 「ええ。アーサーさんのルームメイトさんは貴方が考えている以上に素敵な方なんでしょうね」 なんだか曖昧な言い回しをする年齢不詳の友人に今度は返事をせずに、ランチに手を伸ばす。 口に入れたサンドイッチはどこか優しい味がして、何故か悔しさがこみあげた。 ***** 「おかえりー」 少女趣味としか言いようのないレースのエプロンを身に付けたフランシスが、おたまを片手に俺の前に立ちはだかった。 「ただいま…って、え?お前、仕事は!?」 まさかこんな時間にいるとは思わず、完全に油断していた。 「ああ、うちの店は5時までだから」 「どんな店だよ!」 フランシスはホントだって~、と笑いながら、テーブルにシチューを鍋ごとどすんと置いた。 「ほら、さっさと手洗って席着けよ。冷めちまうから」 「あ、あぁ」 石鹸でてきとうに手を洗ってから、ドアの隙間からこっそりと、キッチンに立つフランシスの姿を覗き見る。 鼻歌を口ずさみながら突っ立っている様子からは、不自然なところなど見付けられなかった。 ランチの時の友人の言葉が脳裏をかすめる。 オーブンから取り出したフランスパンもテーブルに並べ終えたフランシスは、腰に手を当ててうんうんと頷いている。 「坊ちゃーん、用意できたけど?何してんのー」 エプロンの紐をしゅるりと解く動作すら妙に優雅なフランシスに声をかけられ、俺は無言で洗面所を出た。
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