プロローグ

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 屋上という空間は好きであった。  好きな理由はこの場所には人がいない事にある。つまり、変に気遣うコミュニティーもなく、気を落ち着けられる場所だから好きなのである。  別に一般生徒達は、自分と触れ合う友達関係に気遣いなど感じないのだけど。  単に自分が人を気遣う苦労とは、教室の人間から自分がハブられていると言えばそうだ。高校1年がもうすぐ終わるのに友達0人。それが現実。  コミュニティーを開かない、いや開けない自分があの空気にいるだけで邪魔者。最上で空気扱い。そんな場所に長く居たいと誰が思うのか?  逃げ場所としていつも選んでいる屋上。さすがに冬も終わってない2月では、気温的には音を上げたくなる。のだが、人の冷たい視線よりかは幾らもマシだな。  寒い風に身を縮こませ、防寒着としてはそれなりに機能する冬服で暖を取ろうとすれば。屋上の扉が開かれた。 「あ、先約がいる……」  扉を開けた少女は自分を見て、そう一言だけ自分に向けてか独り言かを呟いた。かき消えるかのような小さな声で。  屋上へ上がってきたのは織崎 日詠(おりざき ひよみ)。茶色のふんわりした短髪に、どこか怯えた風貌をしていて。  早い話が、自分と同じようなタイプの娘であった。食物連鎖の底辺、周りから痛めつけられる弱者という意味では同じ、教室内では最下層の位置。  つまりこいつは自分と同じで。教室内のコミュニティーを築けなかった、周りからのハブられた人物である。
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