第1章 ウタガイ、ゴカイ

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「実は、先生に内密のお願いがあるんですが。よろしいですか?」  内密。と、潜めた声で担任は察してくれて。担任も声を潜めて自分に返す。 「内容によっては聞いてやってもいいが。何をお願いするつもりだ?」  内容自体は難しいものではないけれど、やっても良いとは言い難い事で。  教えてもらいたい事があるんです。 「織崎が運ばれた病院と、出来るならば病室を教えてくれませんか? 見舞い。行ってやりたいんで」 「織崎に見舞いを? お前がか」 「……はい。何であろうと、織崎の飛び降りを止められなかったのは自分ですから。責任、感じてまして……。  それに。織崎を見舞う友達もいないと思いますし。せめて自分だけでもと」  自分で言っていてなんなのだが、吐き気を催したくなるセリフである。こんな偽善者ぶった言葉、よくもまぁ吐けたもんだと褒めたくなる。  織崎を止められなかった責任? そんなのある訳無い。突然前触れもなく落ちた奴に対し、自分に責任があると言うなら責任の押し付けだ。  見舞うのだって織崎の為ではなく自分の為だ。決して、気遣いや励ますものとは違う目的があるからこそ。  内心に本音を隠し、偽った上辺だけで担任に懇願すれば。困った顔をしつつも。
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