プロローグ

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「困ったな……。今日やらないといけないのに、柏壬(かしわみ)君がいるなんて」  これも自分に向けてなのか独り言かも分からない。消え入りそうな声で、なんとか聞き取れるのがやっとである。  自分、柏壬 柚樹(かしわみ ゆずき)はこの少女、織崎に対して特別な感情などは持ち合わせていない。  織崎は単にクラスメートであり、単に自分と同じハブられ者であり。でもそれだけ。それ以上に思う事はない。  もし仮に、織崎以外の誰かが同じであっても、自分はその誰かと織崎に同じ感情を抱ける。故に、織崎個人にという感情は一切無いのである。  けれど、同じハブられ者に対しての感情が無い訳ではない。  同じハブられ者としての親近感があって。織崎が逃げ場所としてここに来た事に何も言わず、無言と無関心という気遣いを送ってやった。  はは……笑えるな。自分にはコミュニティーが無く、他人への気遣いが嫌でここに逃げたのに、同じコミュニティーの無い人間に気遣うとはな。皮肉だ。  屋上の端で取り巻く状況の皮肉に笑んでいると。先ほどまでの声とは違い、ハッキリとした口調で織崎は、 「ねぇ、柏壬君。柏壬君は'ひとりだち'ってどう思うかな?」  どうやら織崎には、無言や無関心である気遣いは必要無いみたいだ。織崎の方から話掛けてくるとは思ってもみなかった。  この、小動物のリスか、肉食動物に喰われる草食動物のような彼女に、尋ねられた問いについて返答する。
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