プロローグ

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「バイバイ、柏壬君。最後に誰かとお話出来て嬉しかったよ」  ――――――最後?  そう言った織崎は。まるで、気紛れや好奇心の類で川に石を投げ入れるが如く。  自分の身を、コンクリートの地面へと投じたのであった。  約4階相当に当たる屋上からの身投げ。思わず下を向いて目で彼女を追えば、頭部に赤い血溜まりが広がっており……激しい吐き気を催した。  胃の中の物をぶちまけず、喉でせき止めて押し返す。あぁ、死体なんて初めてみるからな。さっきまで普通に話していた少女のを。  彼女は言った。「'ひとりだち'をしないといけないんだ」と。言葉の繋がり方として、この身投げと一人立ちは関係しているのに違いなく。しかし、意味が分からない。  一人立ち……一人立ち……。生計を立て、親や親戚に頼らずに衣食住を確保する事で……。いいや、今の状況に何一つとして当てはまらない。  一人立ち……一人、立ち……ひとり、だち。…………まさか。  独り、断ち。  唐突に浮かんだ漢字変換。独りで断つ。何を? かは、この状況から察せられた。  命を断つ。独りで、命を断つ。  つまり、己独りで命を断つ行為。自殺。それが織崎が口にしていた「'独り断ち'」の意味であろう。
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