プロローグ

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   自分が"人質"だったと言うことに気付いたのは、居候を始めて間もない頃だった。大学進学を期に、父の姉に当たる山本の叔母さんの所に、居候の身として転がり込んだのだが、知ったのはそれからだ。  人質と言ったって、そんな大袈裟なものではない。人質というより、救世主に近い人質だったのだと思う。でも、叔母さんが面と向かって"人質"だと言ったのだから、やっぱり"人質"であっているのかもしれない。  山本家は、叔母さんとその娘である美穂さんとの二人暮らしだった。七階建ての市営団地の一室。  しかし、旦那であるはずの叔父さんは、そこから徒歩五分の一軒家に別居をしていた。叔母さんとは不仲から離れて住んでいるようで、一度電話ごしに怒鳴りあっているのを見たことがあったが、その剣幕を見る限り、別居しているのも納得だった。  何故そうなったのかは知らないが、叔母さんは、叔父さんの所へ、毎食分の食事を届けにいかねばならないようだった。一人暮らしの叔父さんが家事に困ってのことだったのだろうが、私にとってはいささか奇妙な光景に見えた。  
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