プロローグ

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   それに対して叔母さんは「見返りに生活費をせしめているのよ」と、高飛車に振る舞うような人だった。  裕福でも貧乏でもない、平凡な家庭で育ってきた私にとっては、衝撃的なエピソードではあったが、顔に出しては失礼だと、その度に愛想笑いを浮かべなくてはならなかった。  その景色は、山本家の日常として定着し、安定していた。  居候を始めてしばらく、私は叔母さんから、耳を疑う台詞を聞くことになった。三人、リビングでテレビを観ていたところ、不意に言われたのだ。 「マナちゃんはね、あの人を避ける人質のようなものなよ。ほら、あの人って神経質じゃない。他人がいるところに堂々と怒鳴り込んだりはできない性格なの。思った通り、マナちゃんが来てからあの人もこっちに来ることはなくなったし、最近じゃ、電話すらしてこなくなったのよ。もうほんと、鳥よけの案山子を手に入れた気分だわ」  その言葉は私の耳に入るなり、瞬時に波紋となって広がった。  ――どういうことだ? と。  気を動転させていると、美穂さんが「お母さん、なんてこと言うのよ!」と彼女を叱る。  
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