プロローグ

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   "そんなこと言わなくったって……"  叔母さんはそう言いたげな顔で、拗ねたように無言で別の部屋へと隠ってしまった。私は困惑していた。  叔母さんが言った言葉の意味は、後で美穂さんにがこっそりと教えてくれた。  経緯はこう。私がここに来る前、叔父さんは癇癪(かんしゃく)を起こす度に、山本家に怒鳴り込んでいたそうなのだ。  口喧嘩で終わることもあれば、家の中の食器類を叩き割られたことなどもあって、叔母さんも叔父さんを食い止めるのに何か妙案はないものかと、試行錯誤していた時のことだった。  ふと、私を居候として招き入れてはどうかと閃いたそうなのだ。私が通うことになった大学は叔母さんのアパートから徒歩十五分という最高の場所に立地していたし、部屋を探していた私達家族からしてみれば最高の申し入れ。  もちろん、何も知らなかった天野家は二つ返事で承諾する。その背景に私の人質としてのポジションが隠れているとは、知る由もなかったと言うオチで。  
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