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「おかしいだろ!? 檜嶋さんはただの家庭教師でしょーが! 何でご飯まで食うんだよ!」
必死に阻止しようとする俺を見て、無駄だと嘲笑うかのように檜嶋さんが微笑む。
「俺、ただの家庭教師じゃないよ?」
「……どういうこと?」
「俺への支払いはご飯なんだ」
『支払いはご飯』……?
えっと……つまり……
「お金はいらない。そのかわり、ご飯を提供してもらう。……こういうこと?」
「正解。なんだ、薺さんがあんなに必死に頼むから、どんな腐れ脳みその持ち主かと思ってたのに。自己解決できるくらいの頭はあったのか」
おもいっきりグーで殴りたいところだけど、ここは我慢我慢。
「お金のほうがよくない?」
「金はいらない。それよりご飯」
理解できない。
週5日、食べれるのは1日1食だけの俺ん家のご飯の為に給料を捨てるって?
そこまで美味くないぞ? まぁ、不味くもないが。ごくごく普通の家庭料理だ。
母さんは料理人でもないし、カリスマ主婦なんてたいそうな人でもない。
その辺に居る、のほほんとしたただの主婦だぞ?
「俺に檜嶋さんは理解出来ねぇわ」
「しようとしなくていい。気色悪い。……ところで、せっかく俺も居るわけだし、勉強するぞ」
はぁ? 勉強? なんで? 明日からなんじゃないの?
「嫌だよ! 明日からなんだろ!?」
「一応今日は土曜日だ」
土曜日……土曜日は11時から15時まで。
今何時何分だ……?
俺はベッド上の目覚まし時計を手に取り、時間を見る。
15時20分。
よっしゃ!
「もう15時過ぎてるので」
俺は目覚まし時計を持ち、得意気に檜嶋さんの目の前に突きつける。
檜嶋さんは目覚まし時計が顔に近すぎて見えなかったのか、俺の手から取ると時刻を確認し、「ほんとだ」と呟く。
よし、勝ったな。
そのまま大人しく帰れ。
お前の分の茶菓子は俺が美味しく頂いておく。
カタ、と目覚まし時計を机に置く音。
さぁ、帰れ!
「なにニヤけてんだよ。さっさと勉強道具だせ」
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