2  棗Side

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……や、まぁ、普通の女の子ならね。 こんなカッコいい男にさ、俺のこと呼び捨てでいいぜ、みたいに言われたらさ。 そりゃあ鼻血もんでしょうよ。 でも俺は! まったくもってありがたみが感じられないんだよ! 「ほら、呼んでみ?」 「え? うん……」 ……いや、あのー……いん、普通に言えばいいんだけど。 なんか、改めて促されると緊張するよな。相手はイケメンだしね? 「さ……さつき」 「あ? 誰だよ、ソイツ」 「……うーっ」 「犬かお前は。棗」 今までずっと伏せていた顔をあげると、端正な顔をしたオトコ。 切れ長な目。筋の通った鼻。唇は厚くもなく、薄くもなく、綺麗な形。目にかかる前髪と、長い睫毛が瞳に影を落とし、暗くなった瞳が俺を絡めとる。 『艶やか』 普段使わないこの言葉がすんなりと頭に浮かぶ。 俺だって、オトコなのに。 不覚にも心臓が飛び出すんじゃないかってくらい鼓動が速くなったのは事実であって。 ……皐の大きい手が、俺の右頬を包む。 熱くなるのがわかる。 右頬と左頬の温度差。 「…………皐」 「よし、いい子」 皐は俺の左頬にキスを落とす。 そのとき、皐を叩くことも、殴ることも出来たのに。嫌がれなかった俺に、拒めなかった俺に、俺は激しく嫌悪感を抱いた。 甘いムードに包まれた俺の部屋。 皐は俺の頬から唇を少し離す。 俺は伏し目がちに皐を見ると、初めて見る柔らかい微笑み。 こいつ……こんな顔もするんだ……。 「……さ、勉強するぞ」 低く甘い声。 離れていく唇が名残惜しい……なんて思ってしまった俺は馬鹿なのだろうか? 「……うん」 俺が返事をすると、1階から玄関の開く音がする。 「棗! お茶菓子取りに来てーっ!」 1階から母さんの声。 た、助かった……。 この雰囲気のままだと、なにされるかわかったもんじゃない。 ……なにされても、抵抗出来る自信もない。 「ちょっと行ってく……るっ!?」 立ち上がろうとする俺は、皐に腰をガッシリと掴まれ倒れこむ。 皐が俺にキスをする。 今度は、唇に。 「可愛い」 なにをされたのか、なにを言われたのか理解するのに随分と時間を要した。 「棗ーっ!!」 母さんの声にハッとすると同時に、なにが起きたのかも理解することができた。 「バ、馬鹿じゃねぇのっ!?」 皐を押し退け、扉を開ける。 後ろから愉快そうに笑う声には気付かないふりをして。  
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