1  棗Side

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青い空。 爽やかな風が吹き渡る。 まさにスポーツ日和。 うん。俺もお外に出たいよ。 行けないんです。 こいつのせいでっ!! 「おい、棗。わかんねぇの?」 俺のベッドに座り、ふーっと煙草の煙を俺に吹きかける無礼なそいつは 檜嶋 皐(カイジマ コウ)。 推定20代前半。 長い前髪を緩く後ろに縛り、少しくるりとしている癖っ毛も後ろでまとめている。 顔は……まぁ、そこらのモデルより断然上だな。 これ以上は自分が惨めになるだけだから言わないけど。 俺は顔に吹きかけられた煙を忌々しげに見つめると、手を扇ぎ大げさに煙たがる。 これ見て悪いと思ったら謝れちくしょう。 「聞いてんの? 棗」 「聞いてるよっ! 呼び捨てにすんなよ馴れ馴れしい!」 こんなこと言うつもりはなかったよ? ただ、悪びれもなく謝る気配すら見せず訊いてくるもんだから、少し頭にきちゃって。 怒鳴ったことに対しての後悔はない。 でもこのあと起こった恐怖体験の原因は間違いなくあの発言で。 チラリと俺を見ると、皐は立ち上がり俺の頭を掴んだ。 それこそ、ガシッという効果音がつくほどに。 「棗、立場をわきまえろよ? 俺はお前の兄貴に、親に頼まれてるんだ。わかるか? そのチャラついた脳みそで」 恐ろしい なんて言葉では収まらない。 まさに、鬼の形相というべき表情を皐は俺に向ける。 「ひっ」 思わずあがった悲鳴。 恥ずかしいことではない。 この表情を見て悲鳴をあげないのがおかしいのだから。 そして、徐々に締め上げられていく俺の頭。 細い腕や細い指からは想像出来ないような強さで握られ、痛みが増し、視界が潤んでいく。 「……う」 俺が痛みに堪えかね小さく呻くと、皐は俺の目に涙が滲んでいるのに気付いたのか、ニヤリと笑うと俺の頭を解放した。 「わかったようなら早くやれ」 微かに震えている手で握られた頭を抱えながら、隣で悠長に煙草をふかす変態を涙で潤んだ目で睨む。 ちくしょうっ! 俺は認めない! 認めないぞ! なんでこんな奴に勉強を教えて貰わなきゃならないんだぁっ!!  
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