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棗はしばらく考えこむと、さっきのことを思い出したのか、本来の肌色に戻りかけた顔を、また赤く染め上げる。
「あ、そっか…………わかった……」
「よし、じゃあな。明日は18時からだから」
「うん。待ってる」
…………だから、なんでそういうことを言うかな? こっちは顔赤くして上目遣いの時点でかなり我慢してるんだって! さっき泣いてたのもあって目も潤んでるし。
しかも、待ってるって……会ったときは必死に帰らせようとしてたくせに……。
「ごめんな? 棗。」
「へ? ……ん」
頭に手を乗せ、棗の顔の位置まで下がると、触れるだけのキスをした。
触れるだけのキス。
でも堪らなく甘くて、癖になりそうだ。
棗には好きな奴が居る。
俺の思いを突き通せば、棗が傷付くことになるんだ。
それだけは避けたい。棗の泣き顔はもう2度と見たくない。
でも、好きだと自覚した瞬間、失恋したようなものだ。
これくらい、許してくれ。最後だから。
ごめん、棗。ごめん。
「また明日な?」
「……うん」
棗の家を出て、空を見上げる。モヤモヤとした雲に覆われていて、綺麗な星がまったく見えない。
雲は今にも泣き出しそうで……
「俺、みたいだ……」
雨が降るまえに帰ろう。
足早に歩くと、俺の住むアパートが見えてきた。
よかった……。
そう、安堵した瞬間、空から粒が降る。
「あ……」
雲が、泣いた。
俺も……
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