3  皐Side

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棗はしばらく考えこむと、さっきのことを思い出したのか、本来の肌色に戻りかけた顔を、また赤く染め上げる。 「あ、そっか…………わかった……」 「よし、じゃあな。明日は18時からだから」 「うん。待ってる」 …………だから、なんでそういうことを言うかな? こっちは顔赤くして上目遣いの時点でかなり我慢してるんだって! さっき泣いてたのもあって目も潤んでるし。 しかも、待ってるって……会ったときは必死に帰らせようとしてたくせに……。 「ごめんな? 棗。」 「へ? ……ん」 頭に手を乗せ、棗の顔の位置まで下がると、触れるだけのキスをした。 触れるだけのキス。 でも堪らなく甘くて、癖になりそうだ。 棗には好きな奴が居る。 俺の思いを突き通せば、棗が傷付くことになるんだ。 それだけは避けたい。棗の泣き顔はもう2度と見たくない。 でも、好きだと自覚した瞬間、失恋したようなものだ。 これくらい、許してくれ。最後だから。 ごめん、棗。ごめん。 「また明日な?」 「……うん」 棗の家を出て、空を見上げる。モヤモヤとした雲に覆われていて、綺麗な星がまったく見えない。 雲は今にも泣き出しそうで…… 「俺、みたいだ……」 雨が降るまえに帰ろう。 足早に歩くと、俺の住むアパートが見えてきた。 よかった……。 そう、安堵した瞬間、空から粒が降る。 「あ……」 雲が、泣いた。 俺も……  
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