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……ん。
今、何時だ? 俺はいつ寝た? 頭痛い……。
携帯で時間を確認する。6時……。あれ? 6時……?
「おいこら、皐! 開けろって! ふざけるなよ!?」
その声で一気に目が覚める。急いで玄関に向かい、ドアを開ける。
「……悪い」
「お前まじでふざけんな……」
俺に対して激怒してるのは薺。棗の兄貴だ。バイト先の元先輩。
「寝てた」
「5時前に俺を呼び出したのはどこのどいつだよ……」
「ここのこいつ。悪い悪い」
「別にいいけどよ。これで大した話じゃなかったらすぐ帰るからな。おじゃましまーす」
薺は部屋に入るなり、いつものようにため息をつく。
「薺さ、毎回毎回ため息つくのやめろよ」
「ため息もつきたくなるよ。なんなんだよ、この生活感の無い部屋。布団とテーブルしかねぇじゃねぇか」
俺の家は8畳2部屋。あとはトイレと風呂とキッチンのみ。1人暮らしだし、インテリアとか興味無いし、家具にかける金が勿体ないからテーブルだけ。衣服は段ボールの中。食器などもマグカップ1つだけ。毎日コンビニ弁当だからな。
「棗とは上手くいってんのか?」
テーブルの前に座ると、薺は少し楽しそうに話す。
「……そこそこにな」
ちょっかい出しちゃったとか言えないもんなぁ。言ったら……抹殺されるかもな。
「可愛いだろ? 棗」
ニヤニヤ笑いながら薺が俺に問う。そんなだから弟に嫌われるんですよ? お兄さん。
「普通。なんだよ、なんて言ってほしいわけ?」
「皐は特別な子のことを『普通』って言うよなぁ。嫌いな奴は『興味無い』。普通な奴は『どうでもいい』。皐は人を褒められねぇよな? 『普通』の子以外の奴らは。で、もう1回訊くけど、どうよ? 棗は」
そこまで言ったらもうわかってるんだろ? なんだこいつ。俺を虐めて楽しんでんのか? 変態め。
ふと顔を上げると、薺と目が合う。
なんでも知り尽くした様な目。
嘘を許さぬ目。
薺の前なら……俺は素直になれる。
「……本気で愛した相手が男だと……同性だといったら。お前は俺を嘲笑うか?」
薺はニヤニヤした笑みではなく、安心したような笑みを浮かべた。
「全然」
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