3184人が本棚に入れています
本棚に追加
インターフォンを押す寸前に、ジーンズのポケットが震える。
メール……? 薺?
メールを確認すると、棗だった。
……え? 棗?
ま、待て。慌てるな、俺。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
内容はどうあれ棗から来た初めてのメールだ。
緊張しながらメールを開く。
『皐大丈夫? 道迷った?』
手の力が一気に抜け、スルリと携帯電話が落ちる。
カツンという音と、俺のため息が出たのはほぼ同じ。
…………はぁ……。
なんなんだよ、こいつは本当に。
携帯電話を拾い上げ、インターフォンを押す。
家の中から歩く……いや、走る音。
このまま取れるのではないかという勢いでドアが開く。
「こ、皐っ! な、え? えぇ? う、うわぁ…………」
「ご心配どうも」
自分の携帯電話を棗にヒラヒラと見せれば、棗の顔は羞恥で一気に赤く染まる。
「……どういたしまして」
ハァ、と深く息を吐けば、おぼつかない足取りでリビングに向かう。
心配のメールを送った矢先に俺が来たら、そりゃあ恥ずかしいよなぁ。その気持ちはわかる、わかるけども。そんな可愛い反応されたらこっちが困る。
俺も靴を揃えてリビングに向かう。
「麦茶と烏龍茶、どっちがいい?」
「……烏龍茶」
「なんだよ、その間は」
ハハッと棗が軽く笑う。
眉を軽く寄せ、目を細めると共に目尻が下がる。そして口角を上げた綺麗な笑い方。
そこらの女より、ずっと可愛いと思う。昨日、初めて会ったときは、ただ憎たらしいだけの奴だったのに。
棗はいとも簡単に俺の心を動かしていて。
俺も、悪くないな。なんて思ってしまう。
初めての感覚。
堪らなく心地良くて、
「はい、烏龍茶」
笑顔で烏龍茶を差し出してくる。
俺は、棗の腕を思いっきり引き寄せる。
堪らなく愛しいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!