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「……皐?」
不安そうな声。
ギュッと抱きしめると、皐の体が強ばる。
「痛いっ! 皐、痛いよ!」
「嫌がらないんだ?」
ハッと息を飲む音。
棗は、俺に安心感を抱きすぎだよ。
皐だから、平気。
皐だから、大丈夫。
昨日、あんなことされたのに?
昨日、散々弄られたのに?
キスもした。体も触った。
なのに、なんでそんなに普通なんだよ。距離を置こうと思えよ。気持ち悪いと言えよ。
俺は、恋愛の対象として見られてはいないのか? 結局、遊びだと思われているのか? だから、そんなに安心しているのか?
ふざけるな!
俺は、棗が好きなのに!!
「……嫌がれないよ」
聞こえるか聞こえないかというくらいの大きさで呟く。小さな割に、ハッキリとした口調。
その答えが理解出来なかった俺は、さらに棗に問う。
「なんで?」
そう訊くと、少し戸惑いながら、顔を赤らめながら、口を動かす。
上から見ると口の動きがまったくわからなくて、自分の手中から棗を解放した。烏龍茶で洋服が濡れてしまったが、そんなことは気にしない。
「……ぅに…………れ…………ゃ……じゃ…………った……ら」
聞こえてきたのは断片的な言葉。
「棗、もっかい」
早まる気持ちを抑え込みながら、なるべく静かに、優しい声色で尋ねる。
棗は顔を思いきり上げ、キッと俺を睨みつけると、なにかを決心したかのように息を深く吸い込んだ。
そして、誰もがビックリの言葉を言ったんだ。
「こっ、皐に触られるのっ、嫌じゃなかったからっ!!」
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