3  皐Side

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なんて言った? なにを言ったんだ? 俺がずっと呆然としていると、先ほど衝撃的発言をした目の前の馬鹿が口を開いた。 「皐……? なんとか言えよ……」 なんとか言えって……なにを言えばいいのかまったくわからない。 そんなことを考える余裕なんて、今の俺には皆無だ。 心の中で不安と疑念が混ざり合う。そして次第に疑問だけが心を支配する。 喜んでもいいのか? 期待してもいいのか? 棗も、俺と同じ気持ちだと。 そう思ってもいいのか? 俺を選んでくれたのか? 女の子でなく、俺を? 棗が、わからない。 俺のことをどう思っている? 顔を真っ赤にしながら、なにを考えているんだ。さっぱりだ。わからない。だから教えてくれ。 「棗、お前は……」 「ぁ、あのさ!」 やっと発することが出来た俺の声は、いとも簡単に棗に遮られてしまった。 2人の間に流れる沈黙。数秒ほどのはずなのに、凄く長く感じて、背中に汗が伝う。 もう1度棗に声をかけようと息を吸い込むが、すかさず棗が言葉を紡ぐ。どうやら、俺に喋らせてはくれないらしい。 『なんとか言え』っつったのそっちだろうに。 必死に視線を走らせ、言葉を探す棗を見て、少し心に余裕が出来た。棗もいっぱいいっぱいなんだな、俺だけじゃなかったんだな、と思えたからなのだろう。だが、その少しばかりの余裕も、棗の言葉によって、一瞬で、それこそ跡形もなく消え去ることになるのだが。 「こ、皐に触られるのは……うん。確かに、嫌じゃなかったよ。だけど、だけどね。やっぱり、俺は男で。腐ってても、男で。偏見とかはまったく無いんだけど……俺は、やっぱり……好きになるなら、男じゃ、なくて……女の子を好きになるんだと思うんだ。今だって…………そう。長谷川さんが好きだ。だから、皐の気持ちには応えられない。皐は、好き、なんだけど、その……長谷川さんの好きとは違うから。だから……………………ごめん」  
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