2  棗Side

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アイツは突然、やってきた。 これから起こる事象の原因はこの電話。 「棗ー? お兄ちゃんから電話よ」 「俺にー?」 母さんが1階からそう叫ぶと、俺は窓際にある子機を手に取る。 兄貴が俺に? なんだよ? メールでいいじゃないか。 「もしもーし」 「棗っ!? 棗かっ! お前、見たぞ! 成績表!」 えっ! 成績表? まじかよ! 田所(タドコロ)の奴! 俺の兄貴、一ノ瀬 薺(イチノセ ナズナ)は教師。 もちろん、頭も良いわけで。 弟の俺は兄貴とは真逆。残念なほう。 「田所先生に見せてもらった! よりによって! なぜ数学が1なんだっ!? 俺の担当教科がっ! 田所先生に笑われてしまったじゃないか!」 電話口からわぁわぁと騒ぎたてる声。 俺はそのやかましさに眉を寄せ、受話器を耳から離す。 なんだよ。たまに連絡をとってきたと思ったら。 教師お得意の説教かよ。 またいつもの皮肉と小言か。 あーはいはい。 田所に気に入られたいんだろ? わかりました、わかりました。 俺が自分を下げてるって言いたいんだろ? 教師としてのスキルを。 田所の好感度を。 「はいはい。言いたいことはそれだけか? エリートさん。あんまりしつこいと田所に嫌われるよ? じゃあなっ」 「待て棗っ! 大体お前はっ……」 ガチャンと音をたてて子機を乱暴に置く。 あぁあぁぁ。 うぜぇぇぇ。 ……こういうときは。 俺は机の引き出しから、文庫本を取り出す。 否、文庫本サイズのなにかを取り出した。 カバーを裏返して装丁しているため、外面は完全に文庫本。 縦行に活字が並ぶ本をイメージさせる。 だけど中身は漫画。そしてそこには、ひどく乱れた男女の絵…… ではなく、そこに描かれて居るのは男ばかり。 ボーイズラブ。すなわち……BL。 俺は、BLをこよなく愛す。 いわゆる 腐男子 というもの。  
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