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「あ、母さんこの人は……」
「あら。あなたが檜嶋さんね? 薺から聞いてるわ。それにしても……格好良いわね~」
母さん、お願いだからやめてくれ。
……イタい。
「でも…………今日からだったのかしら? 薺は確か、明日からって……あらら?」
その歳になって首かしげないで。
……キモい。
「……聞いていませんか? 棗くんから」
『棗くんから』
そう言ったさつきの声は、少し低くて、冷え冷えしていて、掠れていて。魅惑的なその声に、無意識にビクッと体が跳ねる。
ちょ、なに反応してんのさ!
「薺さんは、家の連絡先ではなく、棗くんの連絡先を教えてくれまして。棗くんには、今日、挨拶に伺いますと、知らせておいたはずなのですが……」
さつきが俺を見る。
母さんも俺を見てる。
さぁ、どうする、俺!?
「携帯の充電が切れててさぁ。さっき見たばかりなんだよなぁ」
頭を掻き、ヘラヘラと笑いながら大嘘を答える。
だって! BL本読んでてなんてそれどころじゃなかったなんて言えないじゃんか!
これが妥当だろ!
どうだ!?
さつきは俺から視線を外し、母さんのほうに向き直る。
「……では、お母さん。これからの方針、といいますか、勉強の仕方を棗くんと話し合いたいのですが。失礼ですがお邪魔させていただいても?」
ありゃ?
「あら、すいませんねぇ~。お茶菓子買って来ますから」
……ありゃりゃ?
「あ、いえ。御構い無く」
母さんはバタンとドアを閉め家を出る。
ねぇっ!? 俺はっ!?
なに? 放置?
放置プレイですかぁっ!?
「棗くん」
「……なに」
俺は2人して放置されたことにちょっとイラついていて。
態度が悪かったんだ。
「……部屋はどこかな?」
「2階の1番手前の右。茶、持ってくから、先行ってなよ」
「……お邪魔しますね」
はっ! さつきのやろう、ちょっと不機嫌になってやんの!!
ざまぁみろ!!
このときの俺は恐ろしく子供で、
そして、恐ろしく思慮が欠けていた。
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