2  棗Side

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その刹那、さつきの手が俺の服の中に侵入する。 「なっ!?」 いきなりのことに思考が追い付かない。 なななな、なにしてんだこいつ!? 「へ、変態! 手、出せよっ」 グイグイとさつきの手を押し戻そうとするが、全く動かない。 それどころか、上へ上へと手を滑らせてくる。 俺の胸、ある1点をさつきの手がかすめたとき、俺は思わず声を出す。 自分のものとは思えない甘い声…… ではなく……悲鳴。 「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 変態変態変態変態変態っ!! セクハラーっ!! 訴えてやるっ!!」 俺の声にさつきは手にビクリと震わせ、そのまま停止。 怪訝そうに眉を寄せ、俺を凝視する。 俺はここぞと言わんばかりに一気にまくし立てた。 「大体、お前なんなんだよ!? 母さんは知ってるみたいだけど、俺は何も知らされちゃいないんだ! 自己紹介も無しに、こんなのってありえねぇ! このエロ魔神め! お前誰? 俺のなに!?」 自己紹介してたってありえないけど! つか、『俺のなに!?』って……我ながら女々しい台詞。 「お前、まさかタチ?」 ……は? いや、俺の質問どこいった? 言った意味がよく理解出来ず、さつきを見つめる。 スルリと俺の服からさつきの手が出ていき、さつきは俺の上から退く。 「今、感じてなかったろ? 不感症?」 「違う……と思う。ただくすぐったかった」 俺は服と体制を直したあと、自分の胸に手をあて答える。 ……って、おいコラ棗! なに真面目に答えてんだよ! 襲われかけたんだぞ!? 「だから! お前はまず何者だ!」 「……相手がよっぽどの下手くそか、あるいは……」 「質問に答えろぉぉお!」 いちいち勘に障る奴だなっ! 「棗は本当にやかましい奴だな。少しは黙れ」 「質問に答えたら黙ってやるよ」 なんで得体の知れない奴の言うことなんか聞かなきゃならない? 体だって触られたくなかったのに! さつきはふぅと短く息を吐くと、面倒臭そうに口を開く。 「檜嶋 皐。棗の兄、薺さんのバイト先だったとこの後輩。んで、今日から棗の家庭教師。……これでOK? 黙れよ?」 兄貴のバイト先…というのは駅前のファミレス。 大学に行きながら勤めていたところだ。もちろん今は辞めているが。 ていうか、今……いや、玄関でも。 ほとんど聞いてなかったからうろ覚えだけど。 なんか変なこと言いませんでした……?  
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