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「ありぃー?」
ピンポーンという音がのどかで静かな昼下がりの住宅街に虚しく鳴り響く。
ん~聞こえなかったのかなぁ、もう一回押したろっ♪
うん…………いねぇな。
うん、留守だね。
「ふざけんな!!!!くそ、あほっ」
いくら休日とはいえ今日のこの時間に寮に向かうことを伝えていたのだから、一人くらいきちんと待機しているのが常識ではないのだろうか。
私、間違ってないよね?
何だか私は意地になり誰も居ないにも関わらずチャイムを連打してやった。そう、込み上げる怒りをぶつけるように……ってやべぇ自分カルシウム足りてないな、後で煮干し食お。
「にーぼーし!!煮干し!!あんのは分かってんだよっ出せーこらぁ!!」
もうよく分からなくなってきました、煮干し禁断症状まで出てきちゃたよ。
かれこれチャイムを連打して三十分は経つだろか。手がプルプル……というよりもう感覚がない。ちょうど長い間正座をした後の痺れた足みたいだった。
要するに完璧に止めるタイミングが分からなくなってしまったわけだ。
「無理まじ……にぼし」
もう辛すぎて軽く泣きそうになりながらまた押そうとしたが、私はもうチャイムを押すことはなかった。
いや、出来なかったのだ。
感覚のない腕が誰かの腕にがっちりと押さえられているのが目の端に映る。
「君、ご近所めーわく。煮干しならあるから取り敢えず落ち着く、出来るでしょ?」
耳元で囁かれる、障り良いの少し低めの声。
私は少し身震いして発信源を確認するために顔だけ後ろを向いた。
そこには意地悪そうに笑う美男子の顔が間近にありましたとさ、はいっめでたしめでたし!
……じゃないわ。
近すぎなんですけど、危うくキスするところだったんですけど。
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