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「だ、駄目だ。行くな花音ーっ!!!!」
始めに言っておくけど、私は突然別れ話を持ち掛けその場を後にしようとした女じゃない。
私室を訪れた兄の為に席を立った、ただそれだけ。
演劇部員の如く声をあげたかと思うと私の足にすがり付く兄……正直、最上級にウザい。
「無理だよ。ジュース取りに行くだけだから」
「ジュース、ね……俺より樹碓を取るのか。やっぱり爽やか系ハーフのオレンジ樹碓が好」
「あぁめんどくさっ!ちょっと黙って!!」
訳のわからないことを言う兄の手を取って無理矢理に口と鼻を塞がせた。
このままねと告げると、馬鹿正直に続ける姿は兄の威厳を微塵も感じさせない。純粋なのか、はたまた単純なのか……。
「うぐ~っはぁっ……かのっ!死ぬっ塞ぐと胸が苦しいぞ!!まさかこれは、恋か?」
「いえ酸素不足です」
私は何とか兄を振り払い、ジュースを冷蔵庫に取りに行った。
あんなウザい行為をされても兄の分までも持って戻ってくる、こんな出来た妹は他にいるだろうか。
いや、絶対いないだろっ!!
ただ……私の場合はそうしない方が後で面倒だからする。別に兄の為なんかじゃない。
「あ、花音……もしかしなくとも俺の分まで。じゃあご褒美のキ」
「駄目絶対!!STOP!セクハラ竜」
油断も隙もないですね、お兄さん。何度こうしてファーストキスを奪われそうになったことか。
でもキスは回避したけど制裁のパンチは軽々と押さえられてしまった……ちょっと悔しいな。
「何処かで聞いたようなキャッチコピー、風の芸名。つうかご褒美のキス……じゃなくて花音には大切な話があってだな」
私の手をゆっくりと離し、いつにもなく真剣な表情を浮かべる竜に私は生唾を飲んだ。
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