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銀色の人狼が立ち止まった。
「そんなに食いたいか、小僧?」
フェンは頷いた。その音さえ銀色の人狼には届いていた。いや、聞き取ったのほうが正しいか。
「なら、奪ってみせろ」
フェンは躊躇った。他人から物を奪うことなど今まで一度もなかったから。だが、そうしなければ飢え死にしてしまう。
最初は初めて歩く赤子のように覚束ない足取りで。次第に地面をしっかり踏み締め、銀色の人狼に向かって真っ直ぐ突進した。
しかし、銀色の人狼はハエを追い払うようにフェンをテキトーに返り討ちにした。ほんの軽くあしらわれただけだが、フェンは軽々と宙を舞い、近くの木に体をたたき付けられた。
地面に俯せに倒れたフェン。起き上がろうとするが、体が思うように動かない。
「フン……だらし無い」
生肉を食いちぎり、食べている生々しい音と血の匂いがした。慌てて体を起こすと銀色の人狼が鹿を独り占めしていた。
悔しかった。鹿が食べれないことがではなく、何も出来なかった自分が悔しかった。
「また明日の夜ここに来る。それまで生きてろよ小僧」
森に人狼の意地汚い笑い声が響いた。フェンは強く拳を握りしめた。
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