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同じ神の血肉から生まれた違う種族。人狼と吸血鬼。彼らはその種の起源から争いが絶えなかった。
理由は狩猟権利とされていた。
人狼は人間の肉を欲し、吸血鬼は人間の血を欲して狩りを行う。
「より多くの肉を」
「より多くの血を」
その果て無き欲望のまま、同じ人間の血肉を求める両者は引き合う磁石のように遭遇し、獲物を巡って争い、互いの血を流す。それが種の起源から続いていた。
そんな争いの渦の中で一人の人狼の少年が生まれた。少年の名前はフェン。銀髪と青白い瞳が特徴的な少年だ。
フェンの両親は人間を襲うことを止め、争いから離れた環境でフェンを育てていた。しかし、人狼と吸血鬼の争いからは逃げ切ることは出来なかった。
ある日、フェンが一人で森で遊んで、夕暮れ時に家に帰ると両親が一匹の吸血鬼に殺されていた。吸血鬼は血の海に浮かぶフェンの両親を踏み付け、紅い光を放つ醜い瞳でフェンを睨み付けていた。
「マダ一匹残ッテイタノカ」
醜悪な姿の吸血鬼は両親の血で黒く染まった牙を剥き、フェンに襲い掛かった。恐怖で体が動かなかった。迫り来る吸血鬼の牙の動きが、ゆっくりと、しかし、確実にフェンを捉えようとしていた。
フェンの吸血鬼に突き飛ばされ、木にたたき付けられた。激痛が全身を駆け巡り、意識が遠退いていく。薄れ行く意識で最後に見たのは、太陽の沈んだ空に浮かぶ吸血鬼の紅い瞳。
幼い人狼が覚えているのはここまで。
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