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深緑の空の隙間から太陽の白い光が差し込む。ここは涼しい木陰。だが、柔らかくて温かい感触が頭を包み込んでいる。
「あ……気がついた?」
深緑の空と自分の間に一人の少女が顔を出した。雪のように白く滑らかな肌と長い黒髪。そしてルビーのように紅い瞳が印象的な天使のような美少女だ。
フェンはまだ生きていた。この時ばかりは自分達人狼を強靭な肉体を持つ者として創った神に感謝した。
「こ……ここはドコ?」
「ここは“ライン”よ」
聞いたことのない地名だった。
フェンはゆっくり体を起こした。
「だいじょうぶ?ムリしなくていいよ?」
「うん、ヘーキ」
体は少し痛むが、動けないことはなかった。それにいつまでも寝ていられなかった。
辺りを見渡すと川の辺だった。一見長閑な場所だが、少し行くと滝が待ち構えている。もう少し流されていたら今度こそ助からなかっただろう。
「ねぇ、君……名前は?」
少女が歌うように問い掛けた。
「……フェン」
「フェン。いい名前だね。私、レナ。よろしく♪」
レナは花が開いたような明るい笑顔を見せた。フェンは微かに頬が温かくなるのを感じてレナから目を背けた。
レナは音もなく立ち上がり、身丈程もある日傘を広げて木陰から出ていった。
「じゃあ私そろそろ帰らないとお母様に叱られるから」
日傘が作った影の中でレナは微笑んだ。
「待って!」
立ち去ろうとしたレナをフェンは慌てて呼び止めて少女に駆け寄った。
「ま、また……会える?」
「…………うん、きっと会えるよ。また会おうねフェン」
それがレナの最後の言葉だった。レナをまた呼び止めることもできたし、後を追うこともできたが、フェンはそれをしなかった。レナの言葉を信じたからだ。
「またね。レナ」
フェンの声が静かに消えていく。
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