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レナと別れたフェンに待っていたのは孤独だった。日が沈んでだいぶ経つ。しかし、フェンはレナと一緒にいた木陰から一歩も動かなかった。動けなかった。知らない土地でこれからの生活なんてフェンには考えられなかった。
一匹の鹿が川に水を飲みに現れた。フェンの腹が鳴った。いつから物を口にしていないだろう?昨日か?一昨日か?鹿の狩りは父から教わっているが、今のフェンはその体力さえ残されていない。
そのことを知っているかのように鹿は静かに喉の渇きを癒していた。しかし、突然音も無く一匹の人狼が現れ、一瞬で鹿を仕留めた。突然の出来事で鹿もフェンも気付いた時には狩りが終わっていた。
現れたのは美しい銀色の人狼だった。
銀色の人狼は鹿の首を砕き絶命した物を引きずりながら森のほうへ歩き出した。フェンは生唾を飲み込んだ。鹿が絶命した瞬間から食欲が抑制出来なくなったのだ。せめて脚一本分けてもらおうとフェンは残り少ない力を振り絞り銀色の人狼を追った。
引きずられる鹿の死骸からは一滴の血も零れず、匂いだけが地面に残った。
銀色の人狼は歩いている。それに対してフェンは走っていた。だが、距離は一向に縮まらない。
「ま、まって。まってください」
弱々しい声が銀色の人狼に届いた。二人はすでに森の中。木々の葉の隙間から月明かりが二人を照らしている。
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