僕の夜

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僕の夜

どん…どん…どどん… 遠くから微かにジンタの音が聞こえます。 もうピエロの季節のようです。 夜空は満天の星と 淡い金色の月を浮かべて満足気です。 もしかするとピエロ達はその光に導かれたのでしょうか。 いえ。 どうやら四十六人のピエロの玉で玉乗りをするピエロとその他の者達は仲間を捜しているみたいです。 淡い金色の月明かりを身体に纏(まと)い ピエロがとうとう僕の目の前に来ました。 ピエロの玉乗り ピエロの火吹き ピエロの綱渡り ピエロの玉投げ 愉快に歌いそして楽しそうに踊るピエロ達の中に一際大きいピエロがおりました。 大きいと言っても子供ほどの大きさしかないのですが、膝の丈ほどのソレらの中ではやはり群を抜いています。 いわゆる(成りかけ)と言われる者でしょうか。 まだ慣れていないのか緩慢な動きで踊るその姿はやはり目立ってしまいます。 そのたどたどしい動きを見ているうちになぜか無性に懐かしい気持ちになり、切ない気持ちになり、僕から言葉が一つこぼれました。 「さようなら」 あの子によく似たピエロはゆっくりと…形を崩していき、淡い金色の月と同じ色に溶けてゆきます。 そして、僅かに残っていたあの子の一部が完全に溶けてしまう時、ぷんと懐かしい香りが鼻をくすぐったのでした。 「ありがとう」 気がつくと辺りは薄暗く、いつもの部屋が広がっていました。 ピエロの姿も、月の光も、どこにもありません。 いたたまれず窓に向かい、網戸を開けると。 熱帯夜の空には冷く白い月が浮かんでいるのでした。 夜空を見上げ寂しい気持ちをぐっと噛み締めていると ふと…風にのってジンタが聞こえた気がしたのでした。 おわり  
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