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知らせ
実話である。
ある養護教諭から聞いた。
彼女の前任校は山奥で、街中から学校まで、車で通勤していた。
途中、春には春の秋には秋の、山の景色が美しい。
長いトンネルを抜けた後など、夏の空と鮮やかな緑が目に染みるようだったという。
彼女の保健室には生徒が絶えなかった。
いい子も悪い子も、別け隔てなく話を聞き、時には優しく、時には厳しく接する。
生徒の善き理解者であった、と思う。じき50代であろうに、きれいな人だった。
ある朝、彼女がいつも通りに長いトンネルに差し掛かった時だ。
その途端、『ガンッ』と天井が大きな音を立てた。
「落盤かと思った」のだそうである。
天井の傷が気に掛かかる。
「早くトンネルを出て確かめよう」と……その途端、再び音が響いた。
『ガン、ガン、ガン、ガン、ガンッ』
連打である。
彼女は気付いた。落盤じゃない。誰かが金槌で叩いている。そう直感したそうだ。
恐い………けれど、恐くなかった。
トンネルを走る間、何度も金槌の音が響いた。規則的に、繰り返し、訪れる。
トンネルを出た。
音はぴたりと止む。二度と音が響くことはなかった。
路肩に車を止め、天井を確認するが、傷らしい傷は何もない。
学校に着くと、同時に事務室の電話が鳴る。
「………はい?ああ、今、丁度、出勤なさった所です。変わりますね。………H先生❗丁度、お電話ですよ‼」
彼女ば警備員から受話器を受け取る。
電話は、3年前の卒業生……女子生徒の訃報だったそうだ。
彼女は女だてらに鳶職人であった。
今朝がた、足場から落ちて、病院へ搬送される途中で息を引き取ったのそうだ
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