金の王子と双黒の乙女

１ 月の扉

「――…はぁ…」

深夜のナースステーションに溜め息が零れる。

佐倉絵理(さくら えり)は、今日、何度目かも分からない溜め息をつきながら、やる気なくカルテを眺めていた。

(――…今日はツイてないな～…)

まだ残った仕事を横目に肩を落とす。

憧れのナースになって三年目。

ようやく仕事も手早く一人でこなせる様になってきたのに…。

今日は仕事中ボンヤリする事が多く、有り得ない失敗が続き、さっぱり仕事が終わらなかった。

上の空だった原因は分かっている。

『私、結婚することになったんだぁ』

脳裏に浮かぶのは、照れながら報告する友達の笑顔。