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深々と突き刺さる触手。避けなければ確実に自分の体を貫いていただろうそれに、顔が引き攣る。
「……随分、雑な歓迎ね」
その声に反応してか、再び触手が向かってくる。しかし先程のは不意打ちだったから危なかっただけ。
姿が見えている今、それを倒せない訳がない。目を細めて腕を横に凪ぐ。それと同時に、向かってきた触手が砕けた。
「残念。不意打ちならまだなんとかなったかもね」
腕に霊力を纏わせて笑う。これはよく恢が使う戦い方で、使いやすそうだったので真似をしてみた。
ふと階段に人がいる事に気付いた。触手と同じ気配をした人物だ。
それを見て、夕鶴は一瞬だけ目を細める。なんて面倒なものを持ち込んでくれたのか。
「何してるんですか、大野先輩」
隣にいた眞智も慌てて上を見る。そこには無表情で夕鶴を見下ろす光輝がいた。
その纏っている気配が触手と同じ事に眞智も気付いたのか、息を呑む音が聞こえる。
「眞智、下がって」
「……行け」
先程より大量の触手が真っ直ぐ自分に向かう。スピードからして避けられないし、量からして砕けない。
「〈拒め〉」
手を前に出して言う。不可侵な壁に来る事を拒まれた触手は、うねうねとその表面を這う。
「……気持ち悪い」
心底嫌という顔で呟く自分目掛けて触手が襲い掛かる。ぶつかっては弾かれを繰り返す触手に少し苦戦気味だ。
「くそっ!」
ぶつかられる度にその場所に意識を集中させる。それは結構大変な作業で、長くは持たない。
一際太い触手がその不可侵な壁にぶつかった瞬間、壁が大きく橈む(たわむ)。
その衝撃は壁を摺り抜け、遠くにいた眞智にも届く程。すぐ近くにいた夕鶴が堪えられる訳がない。
彼女のすぐ横に吹き飛ばされて壁に激突する。一瞬だけ息が詰まり、不可侵の壁から意識が逸れた。
澄んだ音を立てて消えた壁を越えて真っ直ぐ夕鶴に向かう触手を見て、眞智が悲鳴を上げた。
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