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背後から眞智の悲鳴が上がると同時に、夕鶴の目の前まで迫っていた触手が切り裂かれる。 「姫!」 叫びながら触手の間に入り込んできたのは恢だった。助かったと息を吐く。 真っ直ぐ触手を飛ばしてきた光輝を睨む彼の眼差しは、今までと全く違う。 いつもと違う、完全に殺気に満ち溢れた眼差し。それに少しだけ夕鶴は恐怖感を覚える。 「……姫、無事か?」 だが振り向いてそう聞いてきてくれた恢の眼差しは、自分を心から案じているものしかなくて。 「は、はい」 差し出された手を掴んで立ち上がろうとした時、その手の間を触手が摺り抜ける。 夕鶴が光輝を見ると、先程までの無表情ではなかった。少し怒っているような眼差し。それは恢に向けられていた。 「離れろ」 まるで感情のないその声が聞こえた途端、自分に向かっていたはずの触手が全て彼に向く。 「姫、よく聞け。あいつに憑いてんのは欠片でしかない。お前なら祓えるな?」 「はい!」 「いい返事だ。頼むぞ」 そう言うと恢は向かってくる触手に突っ込んでいく。眞智が驚いたように数歩前に出るが、それを止める。 「眞智、そこで見てて」 「……でも!あの人が負けたら貴方も危ないわ!」 「先輩は大丈夫。負けたりしない」 自分の言う通り、恢は上手い事触手を誘導してくれた。全ての触手がこちらから離れたのを見て彼は笑う。 「姫、今だ!」 「〈加速〉」 恢の合図を聞いて、夕鶴は言魂を発動させる。地を蹴ったその姿はもうその場にない。 慌ててこちらを狙う触手だが、猫のようにしなやかな動きでその間を摺り抜けた。 当たりそうな触手は全て風が阻んでくれるから心配ない。光輝の前まで無傷でたどり着くと、不敵に微笑んだ。
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