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睨み付けてみても、恢の笑い声は止まらない。何がそんなにおもしろいのか。 「お前が本気とか、そんなのは関係ねぇよ。徒人でしかないお前に、姫の側にいる資格はない」 徒人。それが何を表す言葉なのか光輝は知らない。でも何となく分かるような気がする。 それは多分、自分達みたいに何も力のない奴の事を表す言葉なのだろう。 夕鶴は強い力を持っていると聞いた。恢も彼女の側にいた少女も力があるが、自分にはない。憑かれたというのに徒人のままで。 「お前には無理だ。本気だろうがなんだろうが、お前と姫は住む世界が違う」 そう吐き捨てるように言うと、固まってしまった自分を置いて保健室を出ようとする。 「……なら、お前なら!彼女を好きになる資格があるって言うのかよ!?」 やり切れない思いをぶつける。彼の言う事はこちらが驚くほど正しいだろうから。 彼はこの気持ちを知らないから残酷な事が言える。力があるから言える言葉だ。光輝だってそれが欲しかったのに。 恢は答えようとしない。一度立ち止まるが、振り向く事さえしてくれない。 「答えろ、鴉島井!」 自分は徒人だが、人を愛する資格はある。力がないと駄目なのか。力なき者は、力ある者に恋してはいけないのか。 恢はどれだけ問い掛けられても答えない。振り向く事もなく、かといって去る事もしない。 しばらく沈黙が続く。自分は俯いているので何も見えない。見ようとしていなかった。 ただ彼が居る事だけは分かる。歩けば靴音がするから、まだここに居る。 不意に音がする。靴音だ。それは真っ直ぐ、自分に近寄ってきていた。
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