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顔を上げれば恢がいた。その顔は酷く悲しそうで、同性の自分も見惚れるくらい悲しくて。綺麗だった。 近くにある椅子に座ろうともせず、恢はじっと光輝を見続ける。何も話さずに。 「……俺は」 ぽつり。恢の口からやっと言葉が紡がれた。しかし、それは一言だけ。自分はただそんな彼を見ていた。 ―――――――――――――― 恢は迷っていた。多分この言葉を言っても、目の前にいる光輝には意味が分からないだろう。 しかしこれを口にするのは自分のやっている事を誰かに話す事。そしてそれを認めているという事だ。 「俺は、お前の方が羨ましい」 こんな力なんてなかったらよかった。そうしたら、夕鶴と出会う事もなかったろう。 又は彼女がもっと高飛車で嫌な女だったらまだ救われたかもしれない。 どうしてこうなったのか。自分はどこで間違えたのか。もう恢には分からないが。 呆然と光輝が自分を見ている事に気付く。徒人相手に何を言っているのだろう。 急に馬鹿馬鹿しくなってきた。目の前にいる彼は、ただのうのうと生きてきたのだ。 自分がどれだけ悩み、悔やみ続けていても。せっかく夕鶴の側にいれるかと思った時も。 彼はのうのうと生きていて、ひょっこりと彼女の側に現れた。 やっと夕鶴と接触して側にいれると分かった時、自分の血は喜んだ。彼女の側に。1番近くでずっと守っていられると。 しかし心は傷ついた。こうなってしまったら、もう戻れないのだという思いでいっぱいだ。 自分の中に流れる天狗の血。恢はその血が望む事と違う事を、自らの意思でしようとしている。 「お前には、全く関係ないと思うけどな」 扉に向かいながら、光輝に背を向けて話す。彼の方を見れない。今自分がどんな顔をしているか分からないから。 「俺に巫女姫を好きになる資格はない。それ以前に、巫女姫を好きになる事はない。絶対に、だ」 言い聞かせる。ありえない、あってはならないと分かっているからこそ。 結局最後まで振り向かなかったが、光輝がうなだれているだろう事はよく分かっていた。
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